極低消費電力(XLP)LSIチップのサンプル出荷 及びAI(人工知能)等への展開


2017年5月1日
(株)半導体エネルギー研究所



 半導体エネルギー研究所(SEL、厚木市、山﨑舜平代表取締役)とUMC※1は、開発中のcrystalline OS-LSIチップについて、2017年秋にサンプル出荷を開始する見込みです。
 試作した60nmノードのチップでは、効率良い電源遮断により極低消費電力(XLP※2)を実現しており、将来的に現在のシリコンLSI(Si LSI)の3桁の省電力化を目指します。
 極小オフ電流特性とSi LSIとの良好な相性を備えたcrystalline OS-LSIは、現在のIoT、ビッグデータ時代に求められるデジタル動作のみならず、MCU(Micro Controller Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、メモリ(デジタル・アナログ双方可能なメモリ)などの他、AI(人工知能)チップなど、様々な展開が可能です。


1.OS-LSI
 crystalline OS-FETの最大の特長は、Si FETでは実現不可能な、85℃で70yA(ヨクトアンペア、ヨクトは10-24を表す接頭辞)という極小のオフ電流と、16桁以上の高いオンオフ比です。これらの特長により、従来はミリ秒以下の周期で必要であったDRAMのリフレッシュ回数を、OS-FETを用いることにより、1時間~年に数回にまで減らすことができます。また回路動作が不要の場合に電流を遮断する“ノーマリオフ”CPU(図2)を実現することができ、究極の低消費電力化が可能です。
 crystalline OS-LSIチップの実用化にあたり、図1のような、Si FETの上方にcrystalline OS-FETを積層形成する“OS/Si の3Dハイブリッドプロセス”を実現しました。当該プロセスで試作したプロセッサで、低消費電力化を確認しています(図2)。



図1  crystalline OS-LSI断面顕微鏡写真※3



図2  消費電力※3


2.AI(Artificial Intelligence、人工知能)
 crystalline OSはその極小のオフ電流という特徴から、1つのメモリ素子に多くのデータ(値)を保存できるOSメモリ(多値OSメモリ)への応用が可能です。当該OSメモリはアナログメモリとしても利用できます。我々はこの度、このOSメモリのAI(Artificial Intelligence、人工知能)への有効性を見出しました。
 AIでは人間の脳を模したニューラルネットワークが広く用いられます。ニューラルネットワークでは、重み係数(結合係数、乗数)と入力データ(被乗数)との積和演算を行いますが、扱うのはアナログのデータであり、また大規模な並列演算が必要となります。
 この演算をデジタル回路で行う場合には、膨大な規模の回路が必要になるだけでなく、演算結果のメモリへの蓄積が必要となり、メモリへのアクセスが処理速度の律速となってしまいます。
 デジタル・アナログ混在処理をすることで、効率的なAIが実現できると期待されていますが、これまでは、サイズや精度などの要求を満たす理想的な新メモリが存在しませんでした。
 この度、精度の高いアナログメモリを混載したcrystalline OS-LSIを実現し、ニューラルネットワークにおけるアナログ演算が可能となりました。これにより、低消費電力化に加え、回路規模を大幅に縮小することができ、チップ上にAIの機能を搭載することができます。

 crystalline OS-FETを用いたOSメモリは、ニューラルネットワークに必要とされる6ビット以上の精度、すなわち、64値以上のデータ保持が可能であることに加え、MRAM(磁気抵抗ランダム・アクセスメモリー)やFRAM(強誘電体メモリー)等の2端子素子とは異なり、4端子であるため制御しやすい特徴もあります。

 我々は、OSメモリセルがローカルメモリと乗算回路を一体化した演算素子として機能し、積和演算回路を効率的に構成できることを、試作したOSメモリセルにおいて確認しました(図3)。この積和演算回路を利用することで、ローカルメモリの省電力・省面積、無制限の書き換え回数(学習が容易)、演算の並列化などが実現されます。また、デジタル回路、アナログ回路の同一プロセスでの混載が容易なため、ニューラルネットワークを構成するアナログメモリ、ロジック(コントローラなど)、アナログ・デジタルインターフェースなどの実装が可能で、混載AIチップの作製も容易になります。



図3 アナログ方式乗算回路(OSメモリは、重み係数を格納するローカルメモリと乗算回路が一体化した演算素子に相当、電流の和が加算に相当する)
※1 UMC is a leading global semiconductor foundry headquartered in Hsinchu, Taiwan. Source: www.umc.com
※2 XLP: eXtremely Low Power
※3 T. Onuki et al., Symp. VLSI Circuits, pp. 124-125, 2016.